「女の香り(1968)」のストーリー

かつてハリウッドに、魅惑の女王として一世を風靡したライラ・クレアー(キム・ノヴァク)というスターがいた。彼女が死んで20年後、彼女を発見し、育てたプロデューサーのバートは、自己の生涯の記念にと、彼女の悲劇のスター生活を映画化しようと思いたった。そして、ライラ・クレアーの映画を撮り続け結婚までした監督のザーカンを、ひっぱり出した。彼はライラの死とともに仕事を断った男。やがて、ライラ・クレアーに扮する、ヒロイン女優が決定した。エルザ(キム・ノヴァク=2役)という無名の新人。だがエルザは体つきは無論のこと、話し方から動作まで、ライラそのものだった。ザーカン監督は、この新人女優の出現に驚き、そして次第に打ちこんでいった。しかし、この様子に危険なものを感じた人物がいる。かつてライラの台詞のコーチであり、今はザーカン監督の家に住みついている家政婦のロッセラである。やがてエルザは、ザーカンとロッセラが死んだライラをはさんで、異常で複雑な愛情関係にあったことを知った。また、ロッセラが、ライラの寝室を死んだ日のままに保存していることも。そして、ライラの死に関しても、ロッセラとザーカンの話は違う。ただひとつ、結婚の夜にライラは死んだ、ということを除いて。ライラは階段から落ちて死んだ。だがロッセラは、その時ライラはファンの青年と争っていたからだといい、ザーカンは、結婚式の夜なのに、ライラが男装の美少女と、たわむれていたからだと。その美少女を、男だと思ったザーカンは階段の上からつき落とした。下をのぞき込んだライラ。ザーカンが引きとめようとするのに、彼女はその手をふり払った。そしてライラは死んだのだ、とザーカンは語る。一方、映画撮影の方は順調に進み、ライラの死の瞬間を描くラスト・シーンとなった。その頃、ザーカンはかつてのライラの身代わりであるかのようにエルザと関係を結んでいた。だが、エルザには耐えられない。ほかの男との情事を重ね、ザーカンの憎しみの矢は、ライラの演ずるエルザへと向けられる。ライラの死の瞬間は空中ブランコから落ちるという演技の真最中、ザーカン監督は「下を見ろ!」と強要。その声を聞いた時エルザはライラの死の真実を知った。ライラが結婚の夜、少女を連れこんで彼を恥かしめたことに、ザーカンが復讐したのだ。エルザは落ち、ザーカンの腕の中で死んでいった。数ヵ月後のプレミアの夜。人々の感動と賛辞をよそに、ロッセラはひとりピストルに弾をこめ、ザーカンの帰りを静かに待っていた。