「喝采(1929)」のストーリー

ニューヨークの場末をうって廻る喜劇団の主脳女優キティー・ダーリングは良人に先立たれ1人娘のエプリルを相手に暮らす寡婦であった。彼女自身はこうした舞台生活が好きで何時か1度はブロードウェイの檜舞台を踏んでみたいという野心もあったが娘にはそんな卑しい商売はさせたくない気持ちから5才になった娘を修道院へ入れてしまった。キティーにはそれ以来たった1人の寂しい日がつづくことになったが同じ一座に勤める三枚目役者のヒッチは何時からともなくキティーの話し相手となっていた。月日は流れてエプリルは17才の乙女となった。元来色魔的傾向を帯びているヒッチはキティーにそんな年頃の娘があることを知ると言葉巧みにキティーに説いてエプリルを呼び迎えさせたのであった。そしてキティーは娘のすすめるままにヒッチと結婚した。だが母親の結婚生活には偽りがあり、ヒッチが母親の不在に乗じて屡々言い寄るのでエプリルはヒッチを強く斥けると共に今更の如く母親のために嘆いた。或る時エプリルがブロードウェイを歩いていると見知らぬ男が彼女に戯れかかった。船乗りのトニーという若者が彼女を助けた。これが縁となって2人は恋仲になった。だがエプリルは母親キティーがヒッチから芸人として既に過去の存在であると罵られていることを聞くやトニーへの固い約束も忘れていままで嫌っていた舞台に出る決心をしコーラスの1人となった。しかるにトニーと娘とが婚約をしたものと信じたキティーは最早此の世に自分の體が用のないものとして毒薬を仰いでしまった。キティーが劇場に辿りついた時彼女は薬のために麻酔していた。支配人は彼女を酔っているのだと思ってエプリルに代役をさせた。エプリルが生涯に1度の演技によって観客から大喝采を浴びて楽屋に戻って来た時、母親キティーはもはや冷い屍と化していた。嘆きの涙に暮れるエプリルを温い腕に迎えたのは恋人のトニーであった。