「女相続人」のストーリー

1850年のこと。ニューヨーク社交界の中心をなす富豪の邸宅が居並ぶワシントン街に居を占めるオースティン・スローパー博士は一人娘のキャサリンと未亡人の妹ラヴィニアと女中の4人暮らしだった。博士の亡妻は才色ともにすぐれた婦人だったにもかかわらず、娘のキャサリンは容貌も人並み以下で、そのうえ社交性の乏しい引っ込み思案の娘だった。それが父にとってはやりきれない一事で、日頃、この不出来な娘に対し、憐憫とも軽侮ともつかぬ態度をもって向かっていたのである。キャサリンは父に対してはまったく頭のあがらない存在に過ぎなかった。叔母のラヴィニアは日頃、キャサリンの味方役をつとめていたが、スローパー家のよどんだ空気をどうすることもできない有り様だった。ある日、キャサリンは従妹のマリアンの婚約の宴に父や叔母と共に出席した。踊りの下手で美しくない彼女の相手を勤める男もなかったのに、この夜、彼女の前に立つモーリス・タウンゼンドという秀麗な青年の存在、キャサリンにとって夢かとばかり思われ、次第にこの青年の魅力に惹きこまれていった。スローパー博士はモーリスが定職ももたぬ遊情の青年であることを見ぬいていた。博士はモーリスが娘に求婚したと聞くとはげしく反対し、娘が彼を忘れるようにと欧州旅行に伴って行く。しかし、6カ月の旅行もキャサリンの気持ちを変えることはできなかった。博士はモーリスが望んでいるのは娘でなく、娘の財産以外の何物でもない、もし娘がモーリスと結婚するなら相続権を棄てたものと覚悟するようにと言い放つ。キャサリンは一切を棄ててもモーリスと結婚しようと決意する。だが、迎えに来てくれるはずの青年は遂に現われなかった。キャサリンはモーリスが西部に去ったことを聞いて、彼を憎むとともに、父にも深い恨みの心を抱いた。父娘の間にどうすることもできぬ溝のできたまま、スローパー博士は肺炎で急逝した。ワシントン街の邸宅はキャサリンの思いのままとなり、5年過ぎた。その夏のある日、ラヴィニアが西部から帰ってきたモーリスを伴ってきた。彼は零落してはいたが、野心満々たる様子だった。モーリスは5年前の違約を深く詫び、彼女が自分のために莫大な遺産を失うことを見るに忍びなかったこと、いまなお彼女を愛していることを告白した。キャサリンは5年前彼に与えようとパリで購めた高価なカフス・リングを渡して、今晩訪ねてくるようにと言った。モーリスはその夜再びスローパー家の扉を叩いた。キャサリンはその音を聞きながら身動きもしなかった。彼女にはモーリスが5年前のように、自分の財産を欲しがったばかりか、今はなお愛情まで手に入れようと同じ嘘をいっていることをはっきり知っていたのである。

今日は映画何の日?

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