「椿姫(1934)」のストーリー

マリー・デュプレシーは田舎で姉を助けて働いていたが十八才の春を迎えた時に憧れのパリへ出て行った。そして帽子屋の女工として働く事になったが、そこでオラムブ、プリュダンス、ニシェットなどの女と知り合いになった。マリーはプリュダンスに誘われるままカルチェ・ラタンやバル・モビーユやキャフェ・ド・パリの華やかな生活を味わったものの、数カ月後軽い病に冒されて、バニュールに養生に行った。その地で彼女は、一人娘を失ったばかりのモーリアック公爵と相織り、彼の父親のような愛情の下に引き取られ、やがてはパリのアンタン街の豪奢なアパルトマンに住む身となった。それからマリーは当時の芸術の華とさいたパリの社交界に艶名を謳われる様になったのであるが、この際、彼女はミュッセ、ジュール・ジャナン、テオフィール・ゴーチエなどとも相織る機会を持った。ゴーチエは彼女をいつくしみ、自ら名付け親となって彼女にマルグリート・ゴーチエの名を與えた。マルグリートは或晩、ヴァリエテ座の初日に観劇に赴き、そこでプリュダンスの紹介で若い弁護士アルマン・デュヴァルと知り合いになった。アルマンは会ってからマルグリートに恋をしていたので、その夜、マルグリートの家の夕餐に彼が招かれた時、彼女がリストの伴奏で歌を唱った後、己の恋いを彼女に打ち明けた。マルグリートはアルマンの純な恋に心を動かされ、彼女もまた彼に純情な恋を寄せた。そしてその年の夏、二人はブージヴァルの別荘に隠れて、蜜月のような甘い恋の生活に酔った。アルマンを心から恋するマルグリートは昔の友達との交際も断ち、貯えの金がなくなると、己の宝石や持馬を売って男に尽くした。アルマンもまた借財をした。しかし、こうした幸福は長くは続かなかった。アルマンの妹のブランシュの結婚が兄のアルマンの不行跡から破れたという事に心を痛めたアルマンの父は、秘かにマルグリートを訪れて、アルマンに身のため、ブランシュのため、本当にアルマンを愛しているなら縁を切って別れてくれと懇願に来た。愛する男の身のためと思ったマルグリートは苦しい心を押さえて、アルマンと別れ、態と心にもない他の男の許へと走って行った。跡に残されたアルマンは失望のどん底に落ちた。だがそれにも増して悲しく苦しかったのはマルグリートである。彼女は会ってから肺を患っていた。だが、今度の悲しさとは彼女の病を一層につのらせた。そしてマルグリートは恋人アルマンの名を呼び続けながら淋しく死んで行った。委細を知ったアルマンが女の病床に馳けつけた時はもう遅く、マルグリートはその腕の中で冷たくなって行った。