「エスキモー(1934)」のストーリー

極地特有の激しい冬が集落を襲い、蓄えの食料も空しくなったので、狩猟の名手マアラと彼の息は集落の人々を呼び集めて狩猟に出かけ、海象、北極熊等を数多仕留めてマアラは愛妻アバのもとに返って来た。たまたまテパートというイヌイットの男が妻を連れて他の集落から来たので、飢えている2人に食を与えおおいに歓待した。そのころ馴鹿の大群が襲来したとの飛報にまたもや目覚ましい狩猟が行なわれ、とりわけマアラの働きぶりは素晴らしく、集落を挙げて繁栄の喜びに浸った。マアラの一家は幸福に酔っていた。しかるに遠国から旅人が訪れて、白人が持つ銃、縫い針、あるいは彼らの驚くべき文明を称え、彼らとの交易を進めたのでマアラは心を動かされ家族を伴い、大そりにのって長途白人の船へと急いだ。マアラ夫妻などは白人の船に到着し、彼は船長に極上の獣皮を差し出したが、船長は巧みに彼を欺いて1挺の銃を与えただけに止らず、彼の愛妻をも船にとどめておくことを進めるので、彼は反対したが結局白人たちの詭弁に負けて危惧の念に駆られながらも妻を残して彼の小屋に戻った。その夜妻は泥酔して彼のもとに帰って来た。これはマアラにとって不可解な出来事であった。鯨群が現われたとの報に、船長は銛の使い手が負傷していつのを口実にマアラに大役を頼むので、自分の不在中妻を苦しめぬことを条件に彼は承諾した。しかし彼が出発するや船長の毒がはアバの身辺に伸びた。彼女は身をもって氷上に逃れ出でたが遂に倒れた。海豹を追っていた1等運転士のヴォーゲルは毛皮につつまれた彼女を海豹と誤り彼女を射殺した。狩猟から帰って来たマアラは妻の死を知って、大いに怒り銛を振り翳して船長をおそい復讐を研げたのであった。この地方の警備のために組織された警備隊はこのことを聞き、バークとハントの2名が彼の逮捕に派遣されたが、集落の付近で猛烈な吹雪に進路を失いマアラに巣食われて彼の小屋に連れられて来た。殺人を犯したマアラは煩悶のあげく神の前に誓いを立てて改名していたのであるが、通訳は警官たちに彼がマアラであることを告げたので、警官は甘言を以て説き伏せ彼を連行するのであった。その途上マアラは彼らのために鳥獣を捕え嗄れたの食料を豊富にさせたにも拘わらず遂に上官の命令で彼は鉄鎖につながれてしまった。自分が絞首台に上がる運命と初めて悟ったマアラは深夜逃亡を企て、そりと銃を盗んで集落をさして疾走した。警官隊は追跡する。盗んだ銃が使用できず飢えを癒すに犬を犠牲にしてしまい、疲れ果てた彼に狼が襲ったが勇を鼓して赤手でこれを屠り、ようやく集落にたどり着いた。アバの死後マアラは2人の新しい妻をめとっていた。その1人であるエヴァと子供たちの出迎えを受けたが、警官隊の追跡を逃れるべく彼らはさらに北を指して逃走し、遂に彼らは氷原のかなたに姿を没してしまった。