「そして船は行く」のストーリー

1914年7月。ナポリ港の第10埠頭は賑わっていた。大西洋横断客船『グロリアN号』が、まもなく出航するのだ。この豪華船の乗客たちは、オペラ歌手のイルデブランダ・クッファリ(バーバラ・ジェフォード)とアウレリアーノ・フチレット(ヴィクトル・ポレッティ)や新聞記者オルランド(フレディ・ジョーンズ)、レジナルド・ドンビー卿(ピーター・シィリアー)、それにオーストリア・ハンガリー帝国のヘルツォーク大公(フィオレンツォ・セッラ)と盲目の姉皇女(ピナ・バウシュ)ら、その顔ぶれは多彩だ。実は、この『グロリアN号』の目的地は、地中海にうかぶエリモ島。世紀のソプラノ歌手といわれた故エドゥメア・テトゥアの「遺骨は故郷の海に流してほしい」という遺言を全うするために、世界中から彼女を愛した人々が集まり、この船を借りきったのだ。その模様を観客に教えてくれるのが、ジャーナリストのオルランド(フレディ・ジョーンズ)なのだ。船上では、音楽家たちが厨房で演奏を興じ、夕闇がせまると、甲板で人々は月を楽しむ。オルランドの心に残ったのは、美しい少女ドロテア(サラ・シェーン・ヴァーリー)。バッサーノ伯爵(パスクワール・・ディート)は、エドゥメアの衣裳がいっぱい飾られた船室で、ひとり、手回し映写機で、ありし日の彼女を偲んでいた。機関室でオペラ歌手たちが“のど比べ”をした日の次の朝、事件が起きた。サラエボでオーストリアの皇太子が暗殺され、その報復を恐れたセルビア人が海に逃げ、漂流しているのを、この船が救助したのだ。ヘルツォーク大公の総理大臣(フィリップ・ロック)は船長に殿下が危ないと忠告するが、彼は、実はこの旅を利用して主権をソニア皇女の手に移そうと企んでいたのだ。夜、セルビア人の踊りの輪に、優雅な乗客たちも加わり双方はうちとける。だが翌朝、オーストリア、ハンガリー帝国の軍艦が現れる。難民をひき渡せというのだ。あわやということになるが、ヘルツォーク大公の威信で航海の安全は保証される。船はエリモ島に到着し、遺骨は海に流された。その時、再び軍艦が現われた。しかも突然発砲を始めた。セルビア難民の少年が投げた手榴弾が原因なのか、それとも帝国側が攻撃を開始したのか……。やがて軍艦自体が爆発した。救命艇でのがれたオルランドによると『グロリアN号』は沈没したが、乗客の大半は助かったとのことだ。