ここが見どころ
和歌山県白浜町にある断崖絶壁の名勝・三段壁でいのちの電話を運営する牧師・藤藪庸一を追ったドキュメンタリー。自殺を思い止まらせる最後の砦として、様々な問題を抱えた人々の声に耳を傾け、共同生活しながら生きていく道を探す独自の取り組みに密着する。監督は、園舎も園庭もない幼稚園を追った「あおぞら」や、若き親方が率いる伊勢大神楽のある組に密着したテレビ番組『疾走!神楽男子 伊勢大神楽の若き獅子たち』など、数々のドキュメンタリーを手がけてきた加瀬澤充。
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映画専門家レビュー
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映画評論家
上野昴志
観光名所であると同時に自殺の名所でもあるという、和歌山県白浜町にある三段壁、そこで自殺志願者を引き留めるための「いのちの電話」を繋ぎ、救った人たちに共同生活を営む場を提供するとともに、それを支えるための食堂を運営している牧師の活動を描いているのだが、衝撃的だったのは、取材が終わって3年後に明らかにされた事実である。それにより、自殺を考える人も苦しいだろうが、それを救い励ます人が抱え込むものも、それに劣らぬ苦悩があることが明らかになる。
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映画評論家
上島春彦
ちょっとネタバレ。どうやらこれは一度出来上がった作品に後から付け足して完成させたもの。なぜそうなったかは是非見て確認して下さい。自殺志願者を引き留める活動をしている牧師の生活にカメラは密着する。もちろん成果はあるものの、むしろ挫折や徒労の方が色濃い。監督の意図的選択というより主人公牧師のキャラがそうなのだ。やっぱり求道者的であり、そういう意味では楽天的な奥さんと良いコントラストを成す。自殺志願者の方々の個性もそれぞれおかしい。頑固な人もいるしね。
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映画評論家
吉田伊知郎
他人の命への言葉が軽くなった。死ねとか、死んだら負けとか言う奴がいる。本作の牧師は説教臭く自殺志願者を思い止まらせるわけでもない。便利な言葉が思いつかないので、悔しがりながら言葉を探す。これは聖職者というより一人の人間が相手と関係を持ち、心配したり、腹を立てたりする記録だ。優しさは甘えとか、愛があるから厳しくしてるなんて言わない。相手を人として見ているから吐ける言葉が溢れている。人と人が擦れ合う瞬間にドラマが生まれることを思い出させてくれる。
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「牧師といのちの崖」のストーリー
和歌山県西牟婁郡白浜町。牧師・藤藪庸一は荒々しい断崖絶壁が海沿いに続く名勝・三段壁で、悲痛な思いを抱えた自殺志願者たちを思い止まらせる最後の砦として、いのちの電話を営んでいる。借金や人間関係のトラブル、精神的な病など様々な問題を抱え、人生に絶望してやってきた自殺志願者の声に耳を傾ける藤藪。帰る場所のない人々に教会を開放し、共に暮らしながら、生活再建を目指し生きていく方法を探していく。また、藤藪は弁当配達も行う食堂も運営しており、孤独にやってきた人々が同じような経験を持つ仲間と共にもう一度人生を取り戻そうと働いている。中には、何度でも帰ってこれる場所になるといいと語る藤藪に共感し、受洗する者も。藤藪と彼らの対話からは、若者たちの低い生への肯定感、コミュニケーション不全、希薄な人間関係といった日本の様々な問題が見えてくる。2017年には日本の自殺者数は年間2万1321人に及び、厚生労働省の自殺対策白書によると15歳~39歳の各年代において死因の第1位が自殺となっており、大きな社会問題になっている。時に現実と向き合うことも求める心優しくも厳しい牧師と自殺未遂を経験した仲間たちの共同生活を通し、自殺問題の水際を見つめる。
「牧師といのちの崖」の写真
「牧師といのちの崖」のスペック
基本情報 | |
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ジャンル | 社会派 |
製作国 | 日本 |
製作年 | 2018 |
公開年月日 | 2019年1月19日 |
上映時間 | 100分 |
配給 | ドキュメンタリージャパン、加瀬澤充 |
カラー/サイズ | カラー |
公式サイト | https://www.bokushitogake.com/ |
コピーライト | (C) 2018 Doucmentaryjapam.Inc |
「牧師といのちの崖」のみんなのレビュー
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